ギョウジャニンニク 【行者葫】 ネギ科ネギ属 学名:Allium victorialis subsp. platyphyllum

 (APG植物分類体系より前の分類法ではユリ科)
原種のA. victorialis L.はヨーロッパの高山に分布する。
北海道や近畿以北の亜高山地帯の針葉樹林、混合樹林帯の水湿地に群生している多年草。
 長さ20〜30cm、幅3〜10cmの葉で強いニンニク臭を放ち、地下にラッキョウに似た鱗茎を持つ、葉は根生、扁平で下部は狭いさやとなる。
 初夏、花茎の頂端に、白色または淡紫色の小花を多数つける。種子のほかにも不定芽でも増殖する。生育速度が遅く播種から収穫までの生育期間が5年から7年と非常に長いことから、希少な山菜とされ、市場に出回っているものは少量にも関わらず高値で取引される。

ギョウジャニンニクという名前の由来は、山にこもる修験道の行者が食べたことからとも、逆にこれを食べると滋養がつきすぎて修行にならないため、食べることを禁じられたからとも言われている。
 古名、アララギ。 また、キトビロ、ヤマビル(山蒜)またはヤマニンニクなどの別名がある。
 おおよそ、5月上旬から中旬頃の山菜として知られており、葉茎を主に食用として用いるが、しょうゆ漬けにして保存したり、生のままやおひたし、ギョウザ、卵焼きに混ぜるなどして食べる。茎の太さが 1cm程度でまだ葉の開かない状態のものが、味、香り共に濃く珍重される。特に軟白栽培した物が人気がある。
 ニンニクよりもアリシンを豊富に含んでおり、抗菌作用やビタミンB1活性を持続させる効果があり、血小板凝集阻害活性のあるチオエーテル類も含むため、血圧の安定、視力の衰えを抑制する効果がある。成分を利用した健康食品も販売されている。ニンニクの成分に近いためか、食べたときの風味もニンニクに近く独特の臭いを持ち、極めて強い口臭を生じることがある。
 アイヌ民族は春先に大量に採集し、乾燥保存して一年間利用していた。オハウ(汁物)の具としたり、ラタシケプ(和え物)に調理して食べる。さらにその独特の臭気は魔物を祓う力があるとされ、天然痘などの伝染病が流行した際は、村の入り口に掲げ、病魔の退散を願った。西洋の吸血鬼がニンニクを忌み嫌う逸話と相通じるものがあり、興味深い。
 西洋でもラムソン(ワイルドガーリック又はベアラウフ・熊ネギ)と呼ばれる野生種の植物を食べる習慣があり、形や香りがよく似ていることから、これらをギョウジャニンニクとして紹介する場合がある。しかし、ラムソンズの学名は Allium ursinum で、ギョウジャニンニクと同じくネギ科ネギ属の植物だが別種である。


 2010/4/11 双葉郡浪江町西台字台

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